つらいぜ、ベンチャー投資(経営幹部編)

今回は経営幹部編です。

◇経営幹部編
 最初は社長一人で事業を行うケースが多いです。しかし、ベンチャーキャピタルからある程度の金額を調達する段階ではチームが存在し、従業員も数名いることが多いです。その為、社内にCFOやCOO、執行役員、部長と言ったような経営幹部がいます。このような経営幹部が会社を辞めるというような場合は要注意、と筆者は思ってます。

①営業を担当する経営幹部の辞任
 会社の売上に責任をもつ営業担当の経営幹部。取引先に対しても「会社の顔」として大きな影響力を持つだけではなく、社内の売上を管理し、予算遂行の責任を取る立場でもあります。そのような営業担当の経営幹部が会社を辞めるということは会社にも大きな影響を与えます。
 筆者が担当していた投資先の営業担当の取締役は、元大手企業の営業部長を経験した方でした。その経歴は素晴らしく、この人がいれば売上も大きく伸びるかも、と思わせるような人物でした。飲みに行けばとても親身になって色々話を聞いてもらい、キャピタリストとして駆け出しのころの筆者はその人をお兄さんのように慕っていました。しかし数ヶ月経っても中々売上が伸びていきません。焦る営業担当の取締役は自分のネットワークを駆使して、日本全国を飛び回り、会社の製品を売り込むと同時に、製品の使い方のセミナーを開催したりして、土日もほぼ休みなく働いていました。筆者は株主としてその働きぶりを見ており、努力はいずれ結果に表れるだろう、と思っていました。ところがその営業担当取締役が急に辞任する、という事になりました。実の両親が高齢で介護が必要、との理由でしたが、結果が出ない責任をとったんだな、と思いました。この時点では仕方がない、と思いましたが、もう少し必死に止めていればよかった、と後になって後悔することになりました…。その会社が営業をかけていた先は全てその取締役の顔でつながっていたので、当該取締役がいなくなると急に話が進まなくなり、月次で管理している案件リストから取引先がどんどん外れていきました。社内的にも営業のリーダーがいなくなったことで残されたメンバーはどのように動いていいのかわからず、どんどん皆が疲弊し辞めていきました。結果この会社は社長と従業員1名の会社規模になってしまい、投資した株式も価値が上がらず譲渡が困難になってしまいました。営業担当の経営幹部が会社を辞めるという事は、社外的にも社内的にも大きな影響を及ぼすんだな、と実感した投資先でした。

②CFOの突然の辞任_1
 CFO(最高財務責任者)はCEO(最高経営責任者)と共に会社を大きくする責任のある経営幹部です。CEOは会社全体の事に責任を持ちますが、どちらかというと経営成績、つまり売上に責任を持つ一方、CFOは社内の管理業務全般について、特に資金調達や資金繰り、予算と実績の管理などに責任を持ちます。CEOとCFO、この両者が車の両輪のような関係にあり、会社が前に進んでいきます。その為、CFOが突然辞任するという事は会社にとってとても大きな影響を与えます。
 筆者が引継ぎで担当することとなった投資先の事です。その時点で既に本格的な上場準備に入っており、売上も好調、利益も充分という感じでした。その為、しばらく月一回のモニタリングを続けており、会社側と良好な関係を築いていきました。しばらくすると証券会社の審査が入り、いよいよ上場へ、という中、急にCFOが辞任するという事になり、衝撃が走りました。慌てて会社に行き、面談予定は入れてなかったのですがCFOに出てきてもらい、なぜ辞めるのかを聞き出しました。中々辞任に関しての本音を話してくれませんでしたが、漸く聞き出せた内容は、最近売上が下がってきており、予実がぶれてしまい、証券会社からこのままでは上場は難しいと言われている事、CEOが資金繰りについて全く理解しておらず、勝手に多額の設備投資を決め発注してしまっている事(これはガバナンスの問題です)、その影響もあり数ヶ月で資金ショートしてしまう可能性が高いこと、このような事をCEOに進言しても聞いてもらえずパワハラのような仕打ちを受けている事、でした。外から見ているとキラキラしていて上場へ向けてまっすぐに進んでいる会社との理解でしたので、非常にびっくりしました。結局CFOは筆者との面談後すぐに辞任してしまいました。CFOがいなくなった会社は片方のタイヤがなくなった車のようです。大きな音をたてて止まることになった上、車体にも大きな損傷が出ることになりました。その後この会社はどうなったかというと、上場できなかったのはもちろんの事、多額の設備投資をそのまま実行してしまい、資金繰りに窮しました。CEOはお金のことを全くわかっていなかったので、金融機関やVCとの交渉など、資金を工面する動きができませんでした。そのような窮状を見ていたとある金融機関(らしき会社)がこの会社にお金を貸すことになりましたが、それが反社会的勢力…社長が気付いて筆者のところに相談しに来たのですが、こちらも既にどうすることもできず。しかも反社会的勢力に関与されてしまった会社の株式を他に譲渡することもできず、投資は塩漬けに。株式は社長にしか売れない状況となったのですが、その社長もどこかに消えてしまい、携帯を鳴らしても出ないという状況になりました。会社自体は勝手に引っ越しして社名を変えていました。誰が経営しているのかも分からない状況です。CFOが突然辞任するという事はベンチャー投資にとってとても大きな影響があるので、特に注意した方が良いと思います。

③ CFOの突然の辞任_2
 CFOが辞任するというのは、実は結構あります。決められていたタイミングなら良いのですが、そうでない場合は特に注意が必要です。またCEOは会社の実情を良く見せようとするので、CFOと普段から確りコミュニケーションをとり、会社の実情を把握する必要があります。
 投資先のCFOが就任後1年も経たずに辞任したケースがありました。このCFOもなかなか本当のことを話してはくれませんでしたが、漸く聞き出せたところ、CEOが会社粉飾を強制したことが原因でした。しかも昔からよくある手法で。コンサルティングとかシステム納品とか形のないもので売上を上げている会社は、粉飾しやすいという特徴があります。1社だけでは無理ですが、決算月が異なる会社が何社か共謀することによって架空の売上を計上することが可能になります。ただこれはババ抜きと一緒で、その規模がだんだん大きくなってきて何周かした後には、動かすお金が不足し、必ず破たんするという結末になります。その時ジョーカーを持っていた会社が負けるということになります。CFOはCEOにその取引をやめるよう伝えたのだがやめなかった、結果CEOとの信頼関係が破たんし、そのような状況の中CFOを続けるわけにはいかない、という事でした。至極真っ当だと思います。そのほか、経費に関しても私的流用が見受けられ、それを指摘すると喧嘩になるという事でした。個人的にはCFOの気持ちはすごくわかりますが、投資家としてはそういうガバナンス意識の高い人材が社外流出するのはとてもマイナスで、非常にもったいないな、と思ったので慰留しました。しかし、CFOの決意は変わらず。この投資先については即座にEXITするという方針になりました。たまたま投資金額以上の金額で株式を引受けても良いという会社が現れたため損はしなかったのですが、CFOの辞任をきっかけに会社の実情が把握でき、大事に至らなかったケースといえます。