つらいぜ、ベンチャー投資(社長の行動編)

 筆者がベンチャーキャピタリストとして担当した投資先数をよく聞かれるのですが、正直、数えられないレベルです。年に2回の人事異動があり異動するキャピタリストから投資先を引き継いだり、課長に昇進しチームメンバーの投資先も管理するようになったり。40社目くらいまでは覚えているのですが、関与した投資先のトータル数についてはわからないです。多分三桁ちょっとだと思いますが、自信がありません…。

 今回は筆者が経験したベンチャー投資における失敗の兆候について、いくつかご紹介したいと思います。こういうことが起こると危ないよ、という事例です。予算に対して実績が追いついていない状況がしばらく続いているとか、資金繰り表と手元資金が合っていないとか、そういうわかりやすいものは外しました。また、企業が特定されないよう、実際起こった事とは少し変えています。先ずは、社長の行動編です。

◇社長の行動編
 投資をした後のモニタリングは、基本的に社長へのヒアリングになります。個別で聞くこともありますし、取締役会等の会議に出席し質問することもあります。なので社長との関係や社長の変化について敏感になっておく必要があります。その中で下記のような事が起こったら要注意と筆者は個人的に思っています。

①社長の身につけているものが急に高級品になる
 ベンチャー企業の社長は意外と質素な方が多いです。と言いますか、興味のあることがファッションや高級品よりビジネス、という方が正確でしょうか。そのような社長が多い中、高級品を身につけているのを見つけてしまうと、キャピタリストとしてはやはり気になってしまうものです。
 赤字が続いている投資先を引き継いだのですが、2、3回目の面談の時、社長の腕時計が急に数百万円するものに変わりました。怪しいな、と思って調べると業績は良くないのに社長は高給。もっと調べてみると、取引先との接待で使う店は女性が接待してくれるお店で、社長はそれ『ら』の店の常連でした。しかもそういうお店が1軒だけでなく、複数。帰りにはお店が車を出して家まで送ってくれるというくらいの常連でした。このような接待が売上に貢献すれば良いのですが、そのようなことはあまり考えている感じもせず。結局この会社の投資を引き上げることになったのですが、当然投資金額全額を回収できませんでした…。

②社長の目に力がなくなる
 毎月のように社長と面談しているとわかります。目に力がなくなってきたときは大概違う事に興味が移ってしまった時です。筆者にもそのようなケースがありました。
 この投資先も引継ぎだったのですが、何ヶ月か社長と面談をしていくうち、段々社長の目に力がなくなっていきました。目が死んできた、という感じでしょうか。そんなことを思っていた時、「二人で話をしたい」と急に社長から連絡がありました。なんだろう、辞めたいのかな、なんて思っていたら面談時に、「実は、今度の選挙に立候補します」とのこと。契約上VCの了承がないと社長は辞任できないことになっていたので、リードである筆者のところに相談(報告?)しにきたそうです。あ~目に力がなくなってきたのはこのことがあったからなんだなぁ、と思いました。立候補することは個人の自由なので止められません。一方でファンドを運営している以上、投資先のバリュー(価値)が下がることを止めなければなりません。その後は社長と色々話し合い、COOをCEOに、選挙に立候補しても暫く会社の事業には関与する、契約で決められている内容については次期CEO(現COO)が重畳的に引き継ぐ、という条件付きで了承することにしました。結局この会社もCEOが代わったことで方向性が変わり、ファンド満期内にIPOすることはできませんでした。

③社長との面談日程が取れない
 何回連絡しても面談日程が決まらない、代表電話に電話をかけて社長に取り次いでもらおうとしても、いつも会議中。代わりにCFOと話をするも、社長の日程は取れない…等々様々な理由で社長と面談できない状況が続くことがあります。この時は要注意です。大概会社の状況が良くなく、投資家と話をしたくない、という思いが背景にあります。社長はこういうとき投資家側から文句を言われると思っているからです。本当は逆なのですが。会社の状況が良くないときにこそ積極的に投資家に相談し、改善策を見つけていく、そのようなことをすべきだと思います。
 これは筆者のチームメンバーが担当していた投資先の話です。なかなか社長との面談アポイントが取れなかったのに、急に日程が決まり、面談することになりました。筆者は残念ながら他の予定が入っており、筆者の上席者にお願いしそのチームメンバーと行ってもらう事にしました。面談内容を後で聞いたのですが、社長との面談のはずが、なぜか専務取締役という名刺を持った人物との面談になったそうです。しかも取締役なのに株主総会で承認した記憶も履歴もないという…。面談は終始専務取締役の威圧的は雰囲気に押され、またこちらも面食らったこともあり、何も聞けず話せず終わったとのことでした。すぐにその人物が何者なのかという調査をしましたが、ヒットしません。多分名刺の名前も偽名だったんだと思います。危うい雰囲気を感じEXITを模索していた中、会社側から株式を購入したいと申し出ている会社(A社)がある、との連絡があり、社内で吟味をした結果、その会社にとても低い株価で売却することになりました。その会社に投資をしていた他の投資家にも聞きましたが、みな同じような経緯で株式をA社に売却していました。結局投資先はA社の子会社となり、その後A社に現預金を全て持っていかれ、清算してしまいました。投資先にとっても投資家にとっても後味の悪い結果となりました。あの専務取締役はこのスキームの当事者だったのだろうなぁ、なんで社長はこのようなスキームを了承したのかなぁ、等々いまだわからないことだらけです。無理してでも何としてでも、定期的に社長と面談することは必要だな、と思ったケースでした。