VCからの資金調達をお考えの方へ

「VCから資金調達をしよう!」と決めても、何を準備したらよいのか、どんなことをやったらいいのかわからないと思います。そのような人のために、簡単に書いています。

先ず、資料を準備する

1 VCにアポイントを取る前に準備しておく資料(事業計画書、資本政策表)

1-1 事業計画書(プレゼン資料、ピッチデック(Pitch Deck)ともよばれる)

事業計画書は下記順番で記載していく。本編で20ページ~25ページ程度。本編をフォローするappendixが5ページ程度が理想です。長すぎるとVC担当者は読まないか、検討が後回しになります。各内容はわかると思うので、その注意点やポイントを書いておきます。また、イベントとかで利用する資料とは少し異なりますので、ご注意ください。
損益計画のサンプル(エクセル)を添付しますので、ご自由にダウンロード&加工してください。
※アドレス等の登録不要です。
※資金繰りについては簡易的に月中入金・支出にしているので、実際の入出金スケジュールに変更していただければと思います。

番号項目注意点・ポイント
表紙日付(〇〇年〇〇月)を入れるのを忘れずに。いつ時点の資料なのかわからなくなるのを防ぐ意図。
資料全体にページを付記。表紙にページ番号は不要。
目次簡単なものを入れておくのが無難。「1 エグゼクティブサマリー」の後でも可。
エグゼクティブサマリー無くてもいいがあった方が無難。資料のポイントだけを簡単に記載する。
会社概要社名や本社住所等基本的な項目のほか、主な株主(その比率)、簡単な沿革、事業概要も記載する。
会社の理念やビジョン「なぜ起業したのか」という質問の回答と適合するはず。ここで社名の由来を入れてもよい。
経営陣略歴なぜこの経営陣でこの事業ができるのか、というVCの疑問を解決するために略歴を載せる。できれば、最終学歴から入れるのが望ましい。
商品・サービスの概要及びその特徴とビジネスモデル事業ごとに記載する。ここは細かくなりすぎて伝わりにくくなる傾向があるので、なるべくシンプルにわかりやすく記載することがポイント。
収益モデルここも事業ごとに記載する。製品・サービスの流れと、それに対するお金の流れをシンプルに記載する。
想定ユーザーどんな顧客が自社の製品やサービスを利用するのかを記載する。この項目をみて、VCの担当者は「本当にユーザーがいるのか」、「本当に成長していくのか」を判断する。事業が絵に描いた餅ではないことを伝える。
市場規模とその成長性現在の市場規模とその成長性について、客観的な資料を用いて数字で説明する。公的な資料、民間の市場予測等がない場合、VCの担当者が納得するような合理的な算定方法にて説明をする。また、市場の成長性は「10 損益計画」において成長性の根拠にもなるので注意。
競合他社比較(差別化の内容)自社事業とバッティングする(しそうな)企業の製品・サービスと自社製品・サービスを比較する。自社製品・サービスの優位性を伝えたいがため、都合の良い比較項目のみを載せる企業が多いが、それは分析ができていないという評価になってしまうケースもあり、マイナス。ここは自社の方が優れている、ここは自社の方が劣っている、という客観的な分析を伝える必要がある。
10損益計画できれば過去実績から将来の見込み(計画)を記載する。継続性があるかどうかがポイント。売上(過去&将来)については事業別かつその内訳(KPI)を記載する。費用に関しては大雑把で構わないが、事業を展開するために必要な(=計画売上を達成するために必要な)人件費(15%程度の社保等分も加味)、設備(減価償却)、オフィス(賃料)、特許等に関する費用についてはなるべく正確に算定する。期間に関しては、できればIPO+1年or2年まで作る。
事業計画書上は年単位で良いが、3年分は月次で作成しておく(後でVCから提出を求められる)。
11キャッシュフロー計画実はここが一番のポイント。VCとしては、今回の調達額で何年事業が継続するか、その後の足りない資金はいくらか、を一番気にしている。今ラウンドの資金を使用しても(資金)ショートをおこし、かつ、その対応が不充分と判断するなら、今の投資は無駄になるので、必ず見送る。
専門家の意見を求めるべきポイント。損益計画と一緒でも構わない。
12資金調達の概要株式の種類、preバリュエーション(調達株価)、調達金額、クローズ(着金)予定時期、を記載する。調達資金をどう利用するのか(資金使途)も記載する。
appendix上記5~12に関して、追記しておいた方が良い内容を簡単に記載する。良くあるのが、市場規模についての追記と競合他社分析。損益計画やキャッシュフロー計画の詳細を載せてもいいが、後で行われるデューディリジェンス時に提出を求められるので、細かい内容は不要。

1-2 資本政策表(代表者シェア、WACC、永久成長率の目安)

設立から現在までの増資や株式異動、ストックオプション(潜在株式)付与の推移を記載するとともに、将来IPOまでの増資計画等(譲渡予定や株式分割予定、ストックオプション発行予定などを含みます)についても記載します。
資本政策表のサンプル(エクセル)を添付しますので、ご自由にダウンロード&加工してください。
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資本政策表を作成する際一番気になるポイントは、代表者(他経営陣を含める場合もあります)の議決権シェアです。調達する資金額やIPOまでの期間にもよりますが、代表者の議決権シェアは、IPOで公募した後、2/3超であることを先ずは目指して資本政策を組んでみてください。
また、各ラウンドのvaluationについてですが、損益計画を基にDCF法で算定してください。その際詳細なWACC等の算定は難しいこともあり、WACCは40%~60%前後、永久成長率は20%~40%前後で算定してみてください。

2 整理しておいた方が良い資料、その他準備しておいた方が良い事項

VCの担当者との初回面談が終わり、デューディリジェンスが行われることになった場合、下記資料の提出を求められるケースが多いので、事前に準備をしておきます。

番号資料注意点・ポイント
商業登記簿3か月(状況によっては6か月)以内に発行された商業登記簿を準備する。デューディリジェンス時に必要となる商業登記簿はコピーでも良いケースが多い。
現在の株主名簿現時点での株主名簿を準備する。保有株式数のほか、氏名(漢字・フリガナ)、住所、生年月日を記入する。株主に反社会的勢力・反市場勢力がいないかがチェックされる。また、新株予約権者名簿も要求される可能性があるので念のため準備しておく。
取締役・監査役の名簿氏名(漢字・フリガナ)、住所、生年月日を記入する。名簿を基に、反社会的勢力・反市場勢力がいないかのチェックが行われる。
経営陣の略歴書できれば、最終学歴から。また、なるべく退社についても記載する。退社した時期と次の就職との間にある程度の期間がある場合、その間、何をしていたのか聞かれることがある。
税務申告書、決算書あれば過去3期分(法人設立後3期経過していない場合は、過去分全て)。勘定科目明細も添付する。販売費及び管理費の明細も添付する。
借入一覧借入先名、借入額及び残高、利率、返済期日入り。返済計画書の提出を求められる可能性もある。
損益計画の詳細PDFではなく、エクセルで準備する。設定しているKPIもVCの担当者は確認するので、準備をしておくこと。上述した通り、過去実績(1年ないしは2年)から計画につなげられればベストだが、新規事業というケースもあるので、必ずしもそうでなくてもいい。
IPO基準期+1期ないしは2期欲しい。当初3年間は月次で作成する。
キャッシュフローの詳細資金繰り表でも構わない。損益計画と同じく過去実績からつなげられればベスト。こちらもIPO基準期+1期ないしは2期は欲しいし、当初3年間は月次で作成する。資本政策上増資を行う予定であれば、それも反映させる。
資本政策表上記「1-2」で作成したものです。
10現在の組織図keyになるメンバーの名前及び(できるのであれば)構成人数を入れる。取締役が担当している場合はそれも記載。後日、取締役ではないがkeyになるメンバーにVC側からヒアリングが行われる可能性もある(取締役へのヒアリングがあるのは当然)。
11投資契約書、株主間契約契約書等既存VCがいる場合、当該VCと締結している契約書を準備しておく。投資契約書の中に種類株式の要綱が入っていない場合は、別途その要綱も準備しておく。
12その他重要な契約書事業を継続するにあたり重要となる契約書の準備をしておく。デューディリジェンスにおいて必ずチェックされる。
13認可・特許等関連書類特に特許関係が重要となる。特許取得日や「誰が」特許権者なのかがわかる資料が必要。通常・専用実施権を有している場合も契約書等を準備しておく。
14レファレンス(側面調査)先の想定既存の株主や取引先等について、レファレンスと称するヒアリングが行われるため、候補先をリストアップしておく。デューディリジェンスが進むに従い面談の要請がある。ただし、VC側に検討を断られる可能性もあるので、VCから依頼があるまで取引先に話をするのはNG(貴社にとってマイナスになります)。あくまで、手許リストとして用意しておく程度。

3 投資に至るまで

初回面談から投資実行まで、大まかには下記の流れとなります。VCによって会議回数が増えたり、投資委員会前に契約(投資契約や株主間契約等)の合意が必要なケースもあります。初回面談の際、投資実行までの期間や進め方について聞いておくべきです。

経験則ですが、1,000社名刺交換して、事業計画書を基にした初回面談を行う会社はだいたい30%の300社。そのうちDDが実施されるのが10%程度の30社。投資実行されるのが30社中10社程度で、投資を受けた会社でIPOするのが3社、というイメ-ジです。1,000社に会ってそのうち3社しかIPOしないというのが実情です。

下記に、事業計画を基にした初回面談から、実際に投資が実行されるまでの一般的な流れを記載しておきますので、VCとの初回面談の際、具体的にどのような流れか、という点と、各々の段階に至るまでの期間(2週間とか1か月とか)を確認しておいてください。

番号VCのアクション内容
事業計画書を基にした初回面談経営者からの紹介、SNS経由でのアプローチ、既存株主からの紹介等でVCに接触する。
ピッチを見て、メディアに掲載された、他VCの紹介等により、VC側からアプローチがあることもある。
デューディリジェンス(DD)VCとの初回面談で投資検討をしてもらえることとなった場合、資料をVCに提出してDDを受ける。
レファレンス(取引先や既存株主等に対するVCによるヒアリング・視察)も行われるので、スケジュール管理が必要になる。
事前検討会議VCによってはないこともあるし、複数回あることもある。
初回面談時に投資実行までのVC社内手続きやその期間についてヒアリングしておいた方が良い。
投資委員会ファンドから投資を行ってよいかどうかについてVC内での最終会議。
投資金額、株価、株式の種類、契約内容等の大枠を承認し、詳細は現場責任者に委任するケースが多い。
契約交渉投資委員会で決定された枠内で交渉を行う。
投資委員会の枠外の交渉となる場合、VC内で再度投資委員会が必要なケースも発生する。
貴社が飲めない条件を付された場合、貴社側から投資を断ることも可能。
投資実行(着金)各種契約締結、他の投資家との調整(株式シェア等)、原本証明付き書類や必要資料を提出の上、投資が実行される。
着金と共に、VCは会社の株主となり、VCには株主としての様々な権利が発生する。

VCにアポイントをとり、説明を行う

どのようにVCとアポイントを取ったらよいか。意外と悩むポイントだと思います。いくつかアプローチの方法を書いておきます。

①ピッチに出たり、ニュース配信を行い、自社製品・サービスをアピールすることで、キャピタリストからのオファーを待つ
②経営者仲間等の友人に良いキャピタリストを紹介してもらう
③(既にVCからの投資を受けているならば)株主であるVC経由で他のVC(キャピタリスト)を紹介してもらう
④SNSを利用してキャピタリストをフォローしておき、ダイレクトメッセージを送る
⑤VCのHP経由で投資の検討依頼を行う

キャピタリストも必死に投資可能なベンチャー企業を探しているので、①はかなり有効な手段になります。ピッチイベントも毎週やっていたり毎月やっていたりしているので、頻繁に開催しているものを選ぶ方が良いでしょう。また、自社HPや媒体を使ってニュース配信をすることも有効です。
②③は紹介者ががいることで安心感があるため、キャピタリストは比較的容易に会ってくれます。
④はキャピタリストもベンチャー企業の経営者の発言等をチェックし、問題がなければあってくれると思いますが、②③と比較して慎重になると思います。
どのVCもHPから投資検討の依頼ができるので⑤のアプローチもできますが、先に送る資料だけで判断されてしまうので、そこから実際投資検討に至るのはかなり難しいと思います。

では次に経営者がやりがちだけど、『絶対にやってはいけないこと』を書いておきます。『絶対絶対絶対』やってはいけません。

①自分や会社のSNS(TwitterやYouTube、Facebook等)やHPで増資の勧誘を行う事
②半年間の間に、50社以上のVC等に無差別に投資検討資料を送り付ける事(HP経由も含みます)
③ピッチにて投資検討資料を基に聴衆者(50名以上)に増資検討依頼を行う事

全て法に抵触する可能性があります。法を知らずにやらかしているベンチャー企業も結構見ます。「だれかアドバイスしてあげなかったのかなぁ」、「かわいそうだなぁ」、と思いますが、過去に遡って必要な手続きを行う必要があるので(それでも違反は違反のままですが)、IPOするのはかなり厳しい状況(=VCも投資しない)です。残念ですが…。

このようなことにならないよう、投資家接触リストのサンプル(エクセル)を添付しますので、ご自由にダウンロード&加工してください。
※アドレス等の登録不要です。

VCが初回面談で気にするポイント

「VCについて知りたい方へ」の中の「04 VCが初回面談で重視するポイント」に記載していますので、こちらをご覧ください。

初回面談でVCに確認しておくポイント

VCとの面談時、自社の製品やサービスについての説明を行うことで頭がいっぱいだと思います。しかし、下記事項については必ず聞いておいてください。聞いても失礼ではないですし、VC側も答えられる範囲で答えてくれます。VCは株主となるので、投資を受けた後の経営の観点から、ベンチャー企業にとってはとても大事な事項です。

番号聞く内容その詳細
ファンドの運用者(GP)について・ファンドを運用している企業(GP)はどのようなところか?
・特に、GPに親会社がいる場合、それを把握する
・共同GP(GPを複数社で担当しているケース)なら他のGPについて聞くとともに、どのように投資の意思決定を行うかを確認する
ファンドの出資者(LP)について・そのファンドに出資している企業(もしくは人)は誰か、どのような属性か
・LPとのマッチングが期待できるのかどうか
・ただし、守秘義務から教えてくれないことも多いが、その属性(金融機関、〇〇業程度)は把握しておく
ファンドの規模について・総額いくらのファンドなのか
・ファンドの規模は投資金額にも影響してくる。また、追加投資の余力の有無も確認
ファンドの運用期間について・ファンドの満期日の確認
・どれくらいの期間、株主でいてくれるのか
投資後の担当者について・投資後の担当者は誰か、どのような強みを持った人物か
・投資を受けた後やり取りするのは投資後の担当者のため、担当者との相性は重要
・投資を担当した人物が、投資後もその企業を担当するケースが多い
意思決定のプロセスについて・デューディリから投資実行までどれくらいの期間が必要なのか
・投資決定プロセスと会議体(開催頻度も)、決定権者を確認する
投資対象となる業界/ステージについて・投資できる業界/ステージと、投資できない業界/ステージを把握する(積極的かどうかも)
・投資対象となる企業のステージ(シード、アーリー、ミドル、レイター)を把握する
投資対象となる企業の所在地について・投資対象となる本社・事業所所在地を確認
・特に外国籍の企業に関して投資に制限がかかるケースもある
投資の制約について・投資金額の下限~上限、保有シェアの下限~上限を確認
・投資スキーム(株式以外の取扱い)や追加投資の可否を確認
・リードへのこだわり(リードとなれる場合のみ投資する、リードはやりたくない等)を確認
・追加出資できる場合その方針(追加出資できるケース、できないケース)を確認
10保有(EXIT)方針・保有可能期間の確認(ファンド満期日までなのか、投資後3年で継続保有の判断があるのか、ファンド満期日の2年前なのか等について確認)
・EXIT方針(M&Aなのか、IPOなのか、IPOであればIPO時の売却方針等)を確認

デューディリジェンス時にVCが気にするポイント

「VCについて知りたい方へ」の中の「05 VCがデューディリジェンスで重視するポイント」に記載していますので、こちらをご覧ください。

投資条件の交渉

デューディリジェンスが進んでくると、VCと投資条件の交渉を行います(※VCによっては投資委員会(IC)で投資決定後に行う事もあるようです)。何を交渉するのか、どんなことがポイントなのか、VCが絶対譲れないことは何なのか、どんな契約形態なのか、について下記では開設しています。

6-1 大きく分けると、「基本的なこと」、「権利義務」、「EXIT」

基本的な事項

基本的な事項として決めるのは、下記4つになります。ストラクチャーのうち、種類株式に関する会社法の内容については「6-2 発行する株式の種類」に記載しておきました。

バリュエーション投資時の時価総額はいくらか(Pre Valueで交渉)
調達金額ラウンドの最低調達額/最大調達額、各VC等(出資者)の出資金額/シェア
ストラクチャー発行する有価証券の種類(普通株式、種類株式、CB、J-KISS等)
その他投資の条件リードの有無、マイルストーンの設定(追加投資の条件)等

VCの権利確保と経営者の義務

VCは様々な事業会社や金融機関等から資金を預かり、運用しています。そのため、投資先に対する権利を明確にするとともに、投資先の代表者が他の会社の事業に注力したり、勝手に退任したり、勝手に株式を売却しないよう、契約を締結します。細かい項目については「6-3 VCの権利確保、経営者の義務」に記載しておきました。

ガバナンスに関する事項VC側からの取締役/オブザーバー派遣、重要事項に関する事前の承認・協議
情報開示に関する事項財務資料の月次提出、重要会議への参加権
代表者に関する事項事業専念義務、退任の制限、株式の譲渡制限(VC側の事前承認等)

EXITに関する事項

EXITについてのポイントは下記2点です。「VCのEXIT時の協力義務」は通常入りますし、入れても問題ない事項です。一方で「同時売却請求権(Drag Along)」は気をつけましょう。勝手に会社を売られてしまう事も起こりえます。個人的な見解としては、なるべく入れない方が良いです。が、投資を受けるにあたりVC側がどうしても、と言うのであれば、決定権者や権利の発動時期などをうまく調整してください。

VCのEXIT時の協力義務IPOの想定時期、VCファンドの満期対応(譲渡先斡旋義務等)
同時売却請求権(Drag Along)決定権者の選定、その時期、売却条件の決定

6-2 発行する株式の種類

会社法108条1項では、種類株式の具体的な内容が記載されています。ただ、これに限らず様々な権利を付与したり削減したりすることができます。
◎はVCが必ず要求する権利です。〇は交渉次第で与えないこともできます。△はVCにとって対して重要ではない権利です。ただし、種類株式の内容として権利をVCに与えていなくても、株主間契約等で権利を要求してくるケースもあります。
また、3号の議決権が〇ですが、基本的にはVCは要求してきます。議決権がない投資の場合(無議決権株式やCB、J-KISSの場合)、株主間契約で「株主総会決議案に関してVCの事前承認が必要」と定めることにより、実質議決権があるのと同じガバナンスを効かせてきます。そのため、実質は◎だと思ってください。

J-KISSやCBでの投資だと一見種類株式の内容について決めなくても良さそうに思えますが、転換先が種類株式であるケースがほとんどだと思いますので、気をつけてください。

108条1項内容VCにとっての
重要度
重要度の理由
1号剰余金の配当(優先配当が可能)VCはあまり配当を重視しない
2号残余財産の分配(優先分配が可能)M&A時のダウンサイドリスクを回避
3号議決権の制限ガバナンス強化のため、原則議決権を保有する
4号譲渡制限通常定款で譲渡制限が規定されている
5号取得請求権付(株主が請求可)普通株式を対価、金銭を対価等がある
6号取得条項付き(会社が請求可)上場時のみ権利行使できるようにする
7号全部取得条項付きほぼ見ない(M&Aや少数株主排除時に利用)
8号拒否権付き別途、株主間契約等でも対応可能
9号役員選任権付き別途、株主間契約等でも対応可能

6-3 VCの権利確保、経営者の義務

VCは自らの権利を明確にするため、また、投資先の代表者が他の会社の事業に注力したり、勝手に退任したり、勝手に株式を売却しないようするために、下記内容が入った契約を締結します。この契約は主に株主間契約で行われます。1つ1つ重要な内容なので、しっかり理解しておく必要があります。
下記内容以外にも契約を求められることがありますが、内容がわからない場合は、VCにその詳細と貴社にとってのメリット及びデメリットを聞いておく必要があります。

項目内容VCが求めてくる理由等
上場(EXIT)努力義務いつまでに上場(ないしはEXIT)するのかを決めるファンドには満期があるため
取締役または(かつ)オブザーバーの指名権取締役会や社内の重要会議に参加するベンチャー企業へのガバナンス強化のため
重要事項に係る事前の承諾事項経営に影響を及ぼす事項について、「事前」にVCの許可を必要とするベンチャー企業へのガバナンス強化のため
重要事項に係る報告経営に影響を及ぼす事項について、発生が予見される場合や発生した場合、直ちにVCに報告するベンチャー企業へのガバナンス強化のため
継続的情報開示決算書や試算表、税務申告書、予実管理表等をVCに継続的(月一回等)に開示するベンチャー企業へのガバナンス強化のため
(株式の良い売り時を模索するため、という理由の時もある)
アームズレングスルール関連当事者との取引は独立の第三者との取引と同条件とするベンチャー企業へのガバナンス強化のため
投資先の利益を経営陣が関与する他の会社に付け替えられないようにするため
コンプライアンス法令定款の遵守、反社会的勢力等との取引禁止ベンチャー企業へのガバナンス強化のため
ベンチャー企業が反社会的勢力となった場合、VCが保有する株式が売れなくなってしまう
投資者の株式等引受権VCの持株比率が維持できるような権利を付与する希薄化(ダイリューション)を防止するため
経営株主の職務専念義務経営株主の他の会社の取締役就任制限、辞任制限、辞任した場合の競業避止義務等投資先企業の機密情報が他社に漏れないようにし、投資先企業の経営に負の影響を与えないようにするため
経営株主が保有する株式の譲渡制限VCとの契約が終了するまでは、経営株主が保有する株式の譲渡が制限される経営株主が株式を売って、会社の経営から逃げるのを防ぐため
経営株主の譲渡に係る先買権及び共同売却権VCが経営株主の保有する株式を買うことができる権利、もしくはVCも経営株主と同時に売却する権利経営株主がVCの好まない相手に株式を売ることを防ぐため
経営株主のEXITにVCも乗れるようにするため
損害賠償契約違反時にVCが損害賠償請求できる権利VCに提出する資料や情報が不正確/不十分であることを防ぐ
契約違反を犯してはならないという意思付けをさせる目的
経営株主及び発行会社による買取義務、斡旋義務上場できるのにしなかったり、契約違反等があった場合に買取義務が課されるVCのEXIT機会を確保するため
買取価額一定の目線はあるものの、基本的には協議となる目線としてはVCの投資価額、直近の取引事例等があるが、基本的には協議となる
ただし、真面目に経営しているにも関わらず上場努力義務期日を過ぎてしまった場合は、最初から協議された価額となるケースが多い
タグアロング(Tag Along right:売却参加権)特定の株主が株式を売却する時他の株主も同条件で買手に売却する権利VCのEXIT機会の確保のため
ドラッグアロング(Drag Along right:強制売却権)大株主の株式売却に際して、他の株主も同条件で売却をしなければならない義務M&AでのEXIT機会を逃さないようにするため

6-4 契約の種類とその構成

VCと締結する契約として主なものは、①投資契約(株式引受契約)と②株主間契約、です。この①と②を1つの契約にまとめているケースもあります。
また、近年VCがM&AでEXITするケースも増えてきており、③残余財産分配契約を締結するケースもあります。
①と②と③を契約するケースもありますし、③を②に含めた上で①と②を契約するケースもあります。
経験則ですが、過去多かったのは③を②に含めて①と②を契約するケースでした。

契約の種類内容契約当事者主な内容
①投資契約(株式引受契約)主に、投資家が株式を引受ける際の条件を定めた契約発行会社、経営(創業)株主、投資家・発行概要(株式の種類や株価、金額等)
・払込条件
②株主間契約投資実行後の投資家と発行会社及び経営(創業)株主との間の、権利義務を取決めた契約発行会社、経営(創業)株主、(主要)投資家
※全株主が入ることもある
6-3参照
③残余財産分配契約経営支配権の変更を伴うようなM&AによるEXITにおいて、発行会社の残余財産の分配について取決めた契約発行会社、経営(創業)株主も含む全株主・同時売却請求権に関する事項
・みなし清算に関する事項

着金確認、及びその後

契約も締結し、払込予定日に資金が払い込まれれば、とりあえず安心です。契約を締結していても安心せず、着金を確認するまでは油断しないでください。
その後は投資契約に記載されている資料(新しい株主名簿とか登記簿、定款などです)を淡々とVCに提出します。
また、投資後の会議の在り方についてもVCと相談した方が良いです。大概は月一回取締役会を開催し、その場にVCの担当者が社外取締役もしくはオブザーバーで参加するケースが多いです。取締役会に報告/決済事項がある従業員も参加することが多い会社は、VC連絡会のような名称を付けた会議を別途開催することもあります。VC連絡会の参加者は、代表取締役とCFO、その他必要に応じ取締役、VCからは担当者、という感じで運営します。
会議で利用する資料についても細かく確認をしておいた方が良いです。予実管理表や資金繰り表、営業先リストや開発計画及びその進捗、発生した問題や解決した問題などになると思います。
大切なのは、VCは既に投資を実行しているため、会社と対立する相手ではなく、仲間だと思って接することです。経営していると厳しい状況に陥ることもありますが、VCに情報開示をしっかりして対応策の協力を求めるという事がお互いの信頼関係にはとても必要なことになります。

ここまで終われば、資金調達の手続きは終了です。
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