パネイル民事再生法の適用を申請

ユニコーン期待銘柄と知られているパネイルが、2021年5月18日、東京地裁へ民事再生法の適用を申請し、同日保全・監督命令を受けました。パネイルは電力小売り関連のベンチャー企業で、2021年1月13日にfor startups社が発表した「国内スタートアップ想定時価総額ランキング最新版(2021年1月)」では、時価総額767億円で9位にランキングされていました。時価総額だけを見ると、順風満帆にみえますが、実はそうではなかったという事です。

パネイルの資金繰りは2018年頃から非常にひっ迫していました。大手独立系のVCがリードでしたが、手を変え品を変え様々な方式でパネイルの資金調達に奔走していたのを覚えています。当時は私もベンチャーキャピタリストでしたので、「え?こんな方法で資金調達するの?」と驚いた記憶があります。今回の報道では東京電力やパネイルのCTOが悪者のように書かれていますが、それはただのきっかけでしかなく、そもそも資本政策の失敗が招いた結果なのではないか、と思っています。

マザーズに上場している企業は約350社ですが、そのうち時価総額が1,000億円を超えている企業は何社あるかご存知でしょうか?凡そ15社~20社です。その企業のPERは100を超えている企業、500を超えている企業もありますし、決算が赤字予想なのでPERが「ー」という企業もあります。通常PERは20程度と言われていますので、時価総額が1,000億円を超えている企業は、株式市場からは将来をかなり期待されている、と言うことができます。

他方、VC等がベンチャー企業に投資をする際に想定するEXITにおいて用いるPERはどれくらいかご存知でしょうか?投資予定のベンチャー企業が上場したら、という想定をし、類似会社のPERの平均を用いますが、20から良くても40程度です。このPERだと上場時のバリュエーションが1,000億円を超える、と言い切るのは中々難しく、投資リターンが見込めず、結果、投資を見送るという判断になります。ましてや、現在のバリュエーションが1,000億円を超えている企業であれば、上場時のバリュエーションは当然1,000億円を超えると予想できないと投資はできません。つまり、時価総額が高くなればなるほど、資金調達は非常に困難になります。

利益が出ており、かつ、業績が右肩上がりで良くなってきているベンチャー企業は時価総額が高くても資金調達は容易だと考えられますが、そのようなベンチャー企業はあえて資金調達をする必要もないのではないかと思います。つまり、「業績があまりよくないベンチャー企業が」「多額の資金調達をしたいと考えている」が、「既存株主のシェアを守る」ために「時価総額を高く」して調達する、というケースが多いのではないか、と感じています。ここにリードVCの指図もあると、もう手が付けられません…パネイルがこの最たる例なのかと思います。思い切って株価を下げていれば資金調達ができたかもしれませんし、無理して東京電力と提携する必要もなかったのではないかと思います。

ベンチャー企業の経営者が、自社の時価総額を高くしたいという思いは良くわかりますし、当然だと思います。ただその為には、自社の業績向上が伴わないと、最悪の結果になってしまいます。リードVCもダウンサイドリスクやダイリューションリスクも確り受け入れ、適切なバリュエーションで資金調達をするよう指導するというのが必要なのではないか、と考えられますし、経営者もファイナンスを確り勉強し、リードVCと交渉していく、という事が必要ではないか、と考えています。