起業時の思いは大切

みなさんは『丼太郎(どんぶりたろう)』をご存じでしょうか?
筆者が最初に訪問したのは26年前(大学3年生)の茗荷谷店。当時は『牛丼太郎』という店舗名で、東京に複数店舗ありました(ちなみに筆者は茗荷谷店以外行ったことがありません)。

牛丼太郎の運営元は2013年に破産してしまいましたが、「地元で愛されている牛丼を残したい!」という強い思いを持った牛丼太郎の従業員3名が新しく会社を立ち上げ、牛丼太郎から必要な設備を買い取り、かつ、店舗契約も継続できるところは継続しました。そして店舗名も『牛丼太郎』から「牛」を取って(と言いますか、テープで消して)『丼太郎』に変更しました。現在も店舗として存在しているのは、茗荷谷店だけになります。

丼太郎が牛丼太郎から必要なものを買い取る過程において、様々な困難があったと聞いています。それでも何とかして地元の人に牛丼を届け続けたい、という思いから困難を乗り越え茗荷谷店は今も残っています。

すぐ近く(歩いて5秒~10秒程度)には、松屋となか卯がありますが、丼太郎もお昼時は入りきれないくらい人が並んでおり、松屋やすき家とも互角に戦っています。大手チェーン店に負けて撤退していくお店が多い中、丼太郎は今でも多くのお客さんに支持されています。これを起業時の思い、という観点からちょっと考えたいと思います。

牛丼太郎が倒産した際、従業員が立ち上がってその経営を引き継いだ、という話は、地元で知っている人は多いです。もちろん提供されている牛丼の味や値段、サービス提供のスピードも丼太郎支持に関係していると思いますが、それ以上に丼太郎の起業時の思いに共感した人が通い続けているのではないか、そしてそのような人が家族や友人を連れてきて、さらに支持が広がったのではないか、と思っています。

少し話はそれますが、私がベンチャーキャピタリスト時代、投資を決定するしないの最大の判断基準は、社長はなんでこの会社を起業しようと思ったのか、という点(起業の経緯)でした。どんなに優秀な技術でもサービスでも、そこに社長の必死な(切実な)思いがなく、ただ儲かりそうだから始めました、とか、ただ何となく流れで、とか、面白そうだから、いうニュアンスの回答があった場合、投資をお断りしていました(もちろん直接そのような言い方はしてきませんが、聞いているとわかってしまうものです)。これは今も同じです。私が仕事を引き受ける際には必ず社長の起業の経緯をお聞きしています。

起業の際、社長に必死な(切実な)思いがあれば、丼太郎のように共感してくれる人が増え続け、社内外に支持が広がっていきます。もちろんこのような思いがあれば間違いなく成功するとは言い切れないのですが、少なくともこのような思いが社長になければ、筆者の経験上ほぼ間違いなく、会社は行き詰ります。そして、この思いは「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)」で表現されることが多いです。

また少し話はそれますが、最近丼太郎と同じ業界の吉野家が、話題になっています。そこで吉野家の起業の経緯を調べてみたのですが、魚河岸で重労働をしている人たちに、素早く、かつ、栄養価の高い美味しいものをお腹いっぱい食べて欲しい、というのが起業の経緯のようです。その後、関東大震災、東京大空襲、BSE問題で被害をうけてもなお事業を継続できています(1回法的整理はしましたが復活しています)。牛丼の味や値段、サービス提供のスピードも多くの人からの支持を得られている要因だと思いますが、それよりも吉野家の起業の思いに共感した人たちがベースとなって、今の吉野家を支えているのではないかと思ってます。でも今回の騒動は、そのような人たちを裏切るような話で、とても残念に思っています。M&Aを頻繁に行った結果、吉野家の創業時の思いを知る人が少なくなり、気づかない間に利益至上主義になってしまったような気がしています。

さて、最後にちょっとだけ話を丼太郎に戻します。現在は券売機で食券を買って、カウンター内にいる店員さんに渡すというシステムなのですが、牛丼が出てくるまでの時間が異常に早いです。私が行く時間帯(お昼ご飯)はカウンターに2人の店員さんがいるのですが、この2人、お互いの役割が完璧に決まっていて、「はい、牛丼セット(並)」と一人がぼそっと言うとそれ以上しゃべらず、ものの数秒で牛丼(並)、みそ汁、サラダ、が出てきます。食券を渡したタイミングで水が出てきて、椅子に座ったタイミングでサラダとみそ汁が出てきて、カバンを下したタイミングで牛丼が出てくるという、恐ろしいスピードです(笑)吉野家は入店から15秒で牛丼を提供することを目標にしている、と聞いたことがあるのですが、丼太郎も負けないくらい早いです。吉野家は最後お会計をすることを考えると、店に入ってから店を出るまでの時間は、もしかしたら丼太郎の方が早いかもしれません。茗荷谷にお越しの際は、ぜひ寄ってみてください。ちなみに筆者がいつも頼む「牛丼セット(並)」は、2022年1月から価格が上がったにも関わらず、440円です(笑)

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